【夢違え】🙏
最近漸く歩けるようになり、笑顔も見せるようになってきたのだが、その嘔吐は突然のことだった。柘榴色のゼリーを口いっぱいに溜め、本人はでもふざけているようでもあった。認知症とはいえ、程度は軽い。
「ばあちゃん、医者行くべ」
畦道を急いだ。ケンさんがばあちゃんを背中に負ぶっているのだが、後で考えると、このケンさんというのは誰だろう。
「渋木田に行くんですか。あそこだと病院は…」
「〇〇医院に行きましょう」
ケンさんが息を切らして辛そうな表情でそう言うと、ばあちゃんは蝶々の姿になって畑の上をひらひらと一回りして、またケンさんの背中に戻る。
「ばあちゃん、俺の背中に乗れよ」
気が付くと蝶々は二匹になっていた。小さい黄色い蝶々が忙しなげに羽を揺らす。(こっちはばあちゃんじゃないな。)
「ばあちゃん」
(人間に戻れなくなったのか。まずいぞ。)
蝶々は土手の上に遠のいていく。みんなよいじゃなかんべで…。
—?! そんなことねえってば。
その時、瞼の向こうに朝が潤んでいた。